さくらんぼ

今日の朝ごはんにさくらんぼが出てました。なんでも僕の知らないおばさんから貰ったもののようです。のび太くんに無数におじさんがいるように僕にだって無数のおばさんがいるのです。朝は何かと時間がないのでさくらんぼをひとつひとつ食べていたら時間がないので全部種を取ってから食べることを思い付きました。普通に食べたほうがはやいんじゃないかとも思われましたがウィンナーを咀嚼している間に種を取る作業をすればタイムロスが大幅に減るではないかと考え、実行しました。考えてみればさくらんぼを食べるときには必ず実を丸ごと口にほうり込んで種に気をつけながら噛み、うまく舌や歯を使って果肉と種を切り離し、そして果肉を飲み込むか飲み込まないかのうちに種を吐き出す、という方法をとっていました。
杏仁豆腐に入っている始めから種の付いていないさくらんぼを食べるとき以外は必ずそうでした。ほかの方法がないかなんて考えたこともありませんでした。だからどのようにして種を取ればいいのかということにまず戸惑いを禁じ得ませんでした。たぶんヘタは最初に取るべきことは間違いなさそうなのであらかじめ取り除いておきました。すると、赤くてつるつるで一見取り付く島もなかったさくらんぼの実に一点の隙(あるいは糸口、突破口)が見えてきました。さっきまでヘタが付いていた部分は明らかにほかと比べて脆く、弱点のように見えました。もともと赤かった実がまるで恥部をさらしたことで今初めて赤くなったようなそんな錯覚に陥りました。とにかくそのヘタが付いていたケツの穴のような部分に思い切って箸を突
っ込んでみました。すると手には種の感触が伝わってきました。そう、こいつをなんとかしないといけないのです。この時感覚的に悟ったのは実を大幅に解体しないと種を取り出すことは不可能ではないかということでした。というのもさくらんぼの種はスイカなどよりはむしろ桃のように種が果肉に(あるいは果肉が種に)強固にへばり付いているからです。そこで箸で広げた穴に思い切って指を突っ込んでタマゴの殻を剥く感覚で種をあらわにさせました。なるべくスマートなやりかたでやりたかったのですでに指先は果汁でべちょべちょですが種を果肉から切り離す作業だけでも箸でやろうとしました。すると思ったよりも三倍くらいの強さでくっついていたことに驚愕と絶望を禁じ得ませんでした。箸で取ろうとしても指の力が全
然足りないのです。指の力はわかりませんが握力なら40キログラム台後半くらいあるのでたぶん僕の力が弱いのではないと思います。そこで力をより伝えやすくするために卓球でいうペン持ちからシェーク持ちに切り替えました。これならなんとかなりそうですが種が取れたのと同時に確実に1mくらい飛んでいってしまうことが明らかだったのでしかたなく箸で取るのは諦めて手で取ることにしました。手で取るのも若干てこずりましたが十個取り終えました。種のないさくらんぼが十個もお皿に並んでいる様子はかなりよだれを誘います。おもむろに三個くらい掴んで口にほうり込みました。さくらんぼの甘酸っぱい味が口の中いっぱいいっぱいに広がります。さくらんぼの味がすると条件反射で種を噛まないように気をつけて舌で種を
探してしまうのですがその必要はありません。思い切り咀嚼できるのです。種を気にせず思い切り噛める爽快感のはまるで制限速度を気にせずに思い切りぶっ飛ばすような感じでした。せっかくだからほお張り感を満喫するためにあと二個口に入れました。さくらんぼの果肉が噛むたびにブチブチブチっと音を立てて裂けて風味が広がります。まさに中華一番!バリのさくらんぼの大洪水でした。残りの五個も同じように味わいました。満足感は結構ありました。早かったかどうかはわかりません。